秋の七草[季節]

春の七草は、一年を乗りきるために早春に若菜の命をいただき、備えるためのものであり、食せるものである。
ひきかえ、秋の七草は一年の農耕を終え、花を愛でるためのものである。

万葉集には、山上憶良秋の七草を詠んだ歌がある。

「秋の野に、咲きたる花を、指折り、かき数ふれば、七種の花」
(秋野尓 咲有花乎 指折 可伎數者 七種花)

「萩の花、尾花、葛花、なでしこの花、をみなへし、また藤袴朝顔の花
(芽之花 乎花葛花 瞿麦之花 姫部志 又藤袴 朝皃之花)
芽之花=萩の花、乎花=尾花、葛花=葛花、瞿麦之花=なでしこの花、姫部志=をみなへし、藤袴藤袴、朝皃之花=朝顔の花=桔梗


一番で名が出てきているのは、萩の花である。
万葉集で詠まれているのは、ヤマハギだという説が有力なようである。萩は万葉集で一番多く詠まれている花でもあり、万葉集の8巻と10巻で多く出てくる。萩を詠んだ歌は万葉集では、141首にものぼっている。

ミヤギノハギは、梅雨時から咲き出し、五月雨萩(サミダレハギ)の呼び名もある。ケハギが野生種であるとされ、ヤマハギとの違いは葉の先端が、尖っているかいないかの違いもある。ミヤギノハギも年によっては、秋にも花を咲かせることがあるためにややこしい話である。



ヤマハギ(Lespedeza bicolor Turcz.)
ヤマハギ(Lespedeza bicolor Turcz.) posted by (C)ドラ猫



     ミヤギノハギ(Lespedeza thunbergii (DC.) Nakai)
ミヤギノハギ(Lespedeza thunbergii (DC.) Nakai) posted by (C)ドラ猫



萩の次に出てくるのはススキである。ススキとよく似たものにオギがあるのだが、WEBを眺めているとどうも薄と荻がごちゃ混ぜになっているように思える。

株立ちをして生えているのが薄でありばらばらに生えているのが荻であるが、穂をよく見ると、ススキにはノギという太い毛が一本見られるのだが、オギには見られない。

穂が出始めたばかりのススキを花薄と詠んでいる。

今の季節であるならば、「紅の浅葉の野らに刈る草の束の間も我を忘らすな」という季節であろうか。

ススキ(Miscanthus sinensis Anderss.)
ススキ(Miscanthus sinensis Anderss.) posted by (C)ドラ猫


      オギ(Miscanthus sacchariflorus (Maxim.) Benth.)
オギ(Miscanthus sacchariflorus (Maxim.) Benth.) posted by (C)ドラ猫



クズといえば吉野葛が有名である。京都の菓子司の大半が吉野葛を用いているのだろう。
京都から、関東に移り住んだ当初は関東の和菓子を食べてはみたのだが、どうも何かが足りない。

葛であるが、よく河原で見かけたのだが最近では、きれいに刈られてしまい、花に出会えるのは年に1〜2度程度となってしまった。葛の生えている川の土手は葛のおかげで崩れ辛いとも聞く。万葉集でもその強靭な成長力を詠んだものが多いように思う。確か、20首以上詠まれていたはずである。



     クズ(Pueraria lobata (Willd.) Ohwi)
クズ(Pueraria lobata (Willd.) Ohwi) posted by (C)ドラ猫



さて、次が大和撫子ということになる。
ナデシコは、漢名での科名を「石竹」とされる。つまりカラナデシコのことである。

やはり、カラナデシコよりはヤマトナデシコの方を自分は好む。

「秋さらば、見つつ偲へと、妹が植ゑし、やどのなでしこ、咲きにけるかも」
(秋去者 見乍思跡 妹之殖之 屋前乃石竹 開家流香聞)

この唐撫子(石竹)の移入時期がはっきりしない(自分で理解ができていない)

枕草子」(1000)の第67段「草の花は」には、「草の花は、なでしこ。唐のはさらなり、大和のもいとめでたし」とある。つまり、西暦1000年には、唐撫子(石竹)は、移入もしくは日本でも知られていたということである。

それでありながら、「古今集」(西暦914)や「源氏物語」(1004〜1012)にみられる常夏(とこなつ)が、カワラナデシコとされている。この部分がどうも府に落ちない。

中国からセキチクという名前持ったカラナデシコが移入をされたゆえに在来種をヤマトナデシコ外来種をカラナデシコと呼んで区別したことが記されている。その上であえてヤマトナデシコを常夏という名を使うものだろうか?
石竹属というくくりで考えたゆえにヤマトナデシコとカラナデシコと区別をしたはずである。石竹と書いてカワラナデシコとよんだともされている以上余計に引っかかる。

常夏(トコナツ)という名前のイメージがどうもいただけない。もっとも床夏という説もあるとは聞いたのだが。

日本の江戸時代に作られた撫子のお品種に、四季咲きのトコナツ(常夏) var. semperflorens と狂い咲きのイセナデシコ(伊勢撫子) var. laciniatus が存在をしたともされて入るのだが、..........?



カワラナデシコ(Dianthus superbus L. var. longicalycinus (Maxim.) Williams)
カワラナデシコ(Dianthus superbus L. var. longicalycinus (Maxim.) Williams) posted by (C)ドラ猫


            セキチク (Dianthus chinensis L.)
セキチク (Dianthus chinensis L.) posted by (C)ドラ猫


秋に咲くはずのオミナエシであるが、ここ数年は春にも咲くことが多くなった。

この女郎花という花は、男山八幡と縁の深い花である。
自分は、京都に戻った当時男山の裾・くずはでの仕事が多かったことから、男山八幡にはよく出かけた。石清水八幡宮石清水八幡宮)は、ちょうど山崎の桂川(淀川)対岸となる。この山崎の地に、まずは豊前宇佐八幡の託宣を蒙り
現在の離宮八幡宮の地に至り、その後朝廷より宣旨を受けた橘良基が当地・男山に六宇の社殿を建立、三所の神璽を奉安せられたされる。

また、鎌倉の鶴岡八幡は、男山八幡から湘南茅ヶ崎鶴ヶ嶺八幡、その後鶴岡八幡となるのだが、不思議なことに鶴ヶ嶺八幡のことは、鶴岡八幡の由来の中には一切出てこない。

これは、源頼朝が落馬をし、結果亡くなったとされる馬入に近く、過去には鶴ヶ嶺の山門の極近くを相模川が流れていたとも聞く。またこの山門の右手(私有地)には、弁慶塚が残っていて、義経の家臣団は鶴ヶ嶺の周辺に住まいしていたのではという説もあるようだ。頼朝の死は義経残党の襲撃という説もあるようだ。
なお、鶴ヶ嶺八幡社殿右には、大銀杏の古木が残っているが、鎌倉の鶴岡八幡よりは年代が古いようで、神奈川県内では、一番古い銀杏の樹だとされる。

話を、女郎花に戻そうう。
栗谷能の会のブログで「女郎花」を平成13年に演じた様子を伝えている。

http://awaya-noh.com/modules/pico2/content0079.html

 肥後の国松浦潟の僧が都へ上る途中、石清水八幡宮山城国男山)に参詣しようと立ち寄ると、男山の麓には女郎花が美しく咲き乱れていたそうな。

「岩松そばだって山聳え谷廻りて諸木枝を連ねる」と歌われた男山である。

土産にと一本手折ろうとした時、一人の老人が現れてそれを止めます。二人は古歌に詳しいことを誉め、花を折るのを許します。そして八幡宮の社前に案内し、更に男塚・女塚を見せ、これは小野頼風夫婦の墓であり、自分が頼風であることをほのめかして消え失せます。

旅僧は土地の人から詳しく頼風夫婦の話を聞き、夜もすがらその菩提を弔っていると、頼風夫婦の霊が現れます。そして、女は夫が足遠になったのを恨んで放生川に身を投げたこと、女の塚に生え出た女郎花が、頼風を避けるのを悲しみ、頼風もまた後を追ったことなど語り、今はともに邪淫の悪鬼に責められている、と僧に成仏を願います。




オミナエシ(Patrinia scabiosaefolia Fisch.)
オミナエシ(Patrinia scabiosaefolia Fisch.) posted by (C)ドラ猫



秋の七草という割には万葉集には1首のみとなる。

藤袴」といえば当然ながら、源氏物語の第三十帖である。
「おなじ野の露にやつるる藤袴哀れはかけよかごとばかりも」ということになる。源融がモデルだとされ、彼が六条河原院(渉成園)を造営をしたと言われている。渉成園の塀際に車を停めて営業中によく昼寝をしたものである。某和尚に言わせると、天台教義を知らずして、源氏物語は読み解けないという。

渉成園の桜が京都では一番早く桜が咲くことは割りと知られていない。梅の季節、遅い時期に京都を訪ねたならば、北野天満宮にもある文子天神が、渉成園一筋上にある。その少し上が、菅原道真公生誕の地となる(だったと記憶をしているがさてさて)

フジバカマの画像は、京都のものである。
近年、園芸店で売られているものは、ほとんどが、サワフジバカマからの園芸品であるようだ。フジバカマとサワフジバカマの違いを画像として残しておこう。



原種の藤袴
原種の藤袴 posted by (C)ciba



      サワフジバカマ(Eupatorium x arakianum Murata et H.Koyama)
サワフジバカマ(Eupatorium x arakianum Murata et H.Koyama) posted by (C)ドラ猫



      サワフジバカマ(Eupatorium x arakianum Murata et H.Koyama)
サワフジバカマ(Eupatorium x arakianum Murata et H.Koyama) posted by (C)ドラ猫




万葉集の中で朝顔とされるものは、おもに三種とされ、キキョウ、ムクゲアサガオの中のどれかであろう。
秋の七草アサガオは、キキョウとするのが一般的なようなのだが、さてさて。


「月令」五月、「半夏生じ、木菫 榮く」とある。つまり本来ならば、初夏の花ということなのだろうが、実際は秋まで咲いてはいる。しかるに万葉集でのアサガオムクゲを当てはめるのは不適なようである。

アサガオも最近の園芸種であるならば、晩秋おろか初冬でも咲いている種も見かけるが、その昔のアサガオが秋にも花を咲かせていたのだろうか。あえて咲かせていたとしたらヒルガオの方が確立は高いように思える。


              キキョウ(Platycodon grandiflorus (Jacq.) A.DC.)
キキョウ(Platycodon grandiflorus (Jacq.)
A.DC.)
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ムクゲ(Hibiscus syriacus L.)
ムクゲ(Hibiscus syriacus L.) posted by (C)ドラ猫



         アサガオ(pomoea nil (L.) Roth)
アサガオ(pomoea nil (L.) Roth) posted by (C)ドラ猫


資料を見たり、検索(調べて)ブログ記事を書いているわけではないので、間違えている場合もあるとは思う。間違いを見つけられた方はコメント欄へご連絡をいただければ幸いです。


Miscanthus floridulus (Labill.) Warb. ex K.Schum. et Lauterb.  トキワススキ 標準 
Miscanthus x ogiformis Honda  オギ 標準 
Miscanthus sacchariflorus (Maxim.) Benth.  オギ 標準 
Miscanthus sinensis Andersson  ススキ 標準 
Miscanthus sinensis Andersson f. gracillimus (Hitchc.) Ohwi  イトススキ 標準
Miscanthus sinensis Andersson f. purpurascens (Andersson) Nakai  ムラサキススキ 標準 
Miscanthus sinensis Andersson ’Zebrina’  タカノハススキ 標準 

Dianthus superbus L. f. latifolius (Nakai) Kitag.  ヒロハカワラナデシコ 標準 
Dianthus superbus L. var. longicalycinus (Maxim.) F.N.Williams  カワラナデシコ 標準
Dianthus superbus L. var. longicalycinus (Maxim.) F.N.Williams f. albiflorus Honda  シロバナカワラナデシコ 標準 
Dianthus superbus L. var. superbus  エゾカワラナデシコ 標準 
Dianthus superbus L. var. superbus f. leucanthus T.Shimizu  シロバナエゾカワラナデシコ 標準   
Dianthus chinensis L.  セキチク 標準 

Pueraria lobata (Willd.) Ohwi  クズ 標準 
Pueraria lobata (Willd.) Ohwi f. leucostachya (Honda) Okuyama  シロバナクズ 標準 
Pueraria montana (Lour.) Merr.  タイワンクズ 標準 

Lespedeza bicolor Turcz.  ヤマハギ 標準 
Lespedeza x kagoshimensis Hatus.  シロヤマハギ 標準 
Lespedeza thunbergii (DC.) Nakai  ミヤギノハギ 標準 
Lespedeza patens Nakai  ケハギ 標準 

Platycodon grandiflorus (Jacq.) A.DC.  キキョウ 標準 
Patrinia scabiosifolia Fisch. ex Trevir.  オミナエシ 標準 
Patrinia villosa (Thunb.) Juss.  オトコエシ 標準 

Eupatorium x arakianum Murata et H.Koyama  サワフジバカマ 標準 
Eupatorium japonicum Thunb.  フジバカマ 標準 
Eupatorium lindleyanum DC. var. lindleyanum  サワヒヨドリ 標準 
Eupatorium variabile Makino  ヤマヒヨドリバナ 標準 
Eupatorium makinoi T.Kawahara et Yahara  ヒヨドリバナ 広義 

米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList),http://bean.bio.chiba-u.jp/bgplants/ylist_main.html(2009年10月21日)